kindleで電子出版初めて3ヶ月が経過しました。



KDP(Kindle ダイレクト・パブリッシング )に関しては、幾人かの作家さんから質問を受ける事がありました。
やっぱりみんな興味あるんだなーと思ったのと、その時によく聞かれたのが「検索しても小説の例ばかりで、マンガだとどうなのかよく分からない」という話。

ここいらで、体験談交えて、KDPでマンガを発行するための手間と面倒、得られるものについてのエントリを残しておこうと思った次第です。

 

○KDPでマンガを出す事のメリットは?


■amazonという巨大なサイトで
自分の作品を自由に販売できる事


インパクトありますよねえ。だって、今もう大体の人がamazonで買い物できるもの。で、スマホとかタブレットがあればすぐ読める。
最近はジャンプの新刊だって紙の単行本と同時発売だったりするわけですよ。そういう場所で自分の作品が出せるっていう事です。

真打ちキタ感すごいですよね。自分もそう思ってました。今こそでしょ!と。



で、やってみて、本音を言うと。

最初のハードルがかなり高い。

そして、マンガに限って言えば、KDPに手間をかけるより、他のサービスを利用した方が結果的には楽かもしれない…


どうしてそう思ったのかというと

 

 

■ロイヤリティ70%設定には条件がある


KDPセレクトへの登録が必須(kindle専売でないと35%しか選べません)
一冊250円以上に設定しないと35%しか選択できません。
(別サイトで無料公開している場合なども同様)


日本のマンガファンに(おそらく)一番リーチしやすいamazonで直接売れるメリットは本当に大きいし、35%でも十分!っていう見方もあるかとは思うのですが、個人で同人誌を扱ってきた実感から考えると、1000部とか安定余裕で出せる作家さんでなければ、基本趣味の範囲を出ることはない利率だと感じます。

日本の電子書籍サービスだと、今のところパブーが分かりやすそうかなーと思うので、それを例に。

パブーは、本の値段に対して30%手数料引き。つまり標準でロイヤリティ70%状態。
月額525円の有料プランに登録していれば、kindleやkoboとの連携販売も可能。それ用のデータもパブーの機能で自動作成できる。
(ヘルプだけ見た限りだとよくわかんなかったんですが、EIN取得とかそもそもいらないっぽい)

単に多くの人に読んで欲しいってだけならkindleだけにこだわる必要もないかなー…という。

 

■実は(現状)PCで読めない


kindleって今PCで読む手段がないんですよ。(海外のkindleにはある。日本のkindleにはない)
iphone、ipad、アンドロイド端末、あとkindle端末。要はスマホとタブレット端末に限られるって事です。
これ、地味にきついと思う人は多いんじゃないかなあ。自分はスマホでもマンガ読みますが、視力が辛い方はせめてタブレットが欲しいとか思いますよね。スマホで常読に耐えられない人は多いと思います。

 

■米国amazon主体のサービスなので
何も考えずにKDP出版すると
米国で源泉税30%+日本への
振り込み手数料、数千円が毎回!



これさえなければなあ…


いやほんと、これ相当大きいですよ。このへんの「なんか難しそう感」「面倒そう感」で敬遠してる作家さんすごく多い。
これ関係は書くべき項目も多いのでまとめて後述します。結論を言うと、税も手数料も避けられますけど、面倒です。
つーか私まだこのへんの手続き途中なんですよ!終わってない!って時点でもう。
最初に一回これを乗り越えれば後は必要ない手間なのが救いです。

あ!面倒なのは税とか振り込み関係だけで、漫画のアップロード自体はめちゃくちゃ簡単だし、リリースまで超早いです
(しずむちゃんとかデータアップした4時間後ぐらいにもう売ってたぞ!)

 

 

○マンガはKDPに頼らなくても選択肢が多い!


ここからが「小説とは違うマンガの事情です。
今、kindleで盛り上がっている作家さんは、小説を書く人の率がとても高いと思います。
ざっくり目立った作家さんを見回すと、小説:マンガで9:1くらいじゃないでしょうか。
これは正直今後も大きくは変わらないと思います。
kindleとか、パブーとか、koboとかとは全く別軸で、マンガには電子化にあたって多くの選択肢があるからです。

DLsiteとらのあなメロンブックスなどの同人誌委託サイトのデジタル出版部。

●アマチュア作家でも、単行本化やアニメ化までの展開があるマンガごっちゃ

●オンライン販売可能な佐藤秀峰先生の漫画onWeb

●プロ作家さんの過去作品であればJコミ

 

これらのサイトに登録するのとkindle(あるいはパブーとか)で何が違うかというと、読者さんの初期スタート位地が全然違うんです。
kindleは作家が告知ガンガンやらないと、そもそも作品の存在が知られません。
でも、マンガサイトって大抵、新作更新はトップに表示されるし、人気の作品はちゃんとサイト側がピックアップして盛り上げてくれます
営業的な部分が最初からセットになっている。また、読者レビューも盛んなサイトなら励みも多いでしょう。
で、また編集さんもコミティアとかで作家さんに直接名刺渡しに来たりしますしね。かなりの量配ってます。フルーツのとこにも結構来ました。
読者も最初からマンガを求めてやって来るので、その時点でもう「面白いものを読みたい」という意識が高い人が多い

 

無料公開に限定するなら

●マンガアップロード機能もある超大手pixiv

●マンガSNSのマンガゲットとかの選択肢もある。

 

今まで、電子小説ってこれといったフォーマットが無かったんですよ。途中で「やっぱブログかね?」「いやメルマガが熱い」とかの時期を挟んで、電子出版が美しく整ったkindleに一気に注目が集まった。
でもマンガの電子販売はもう何年も前から色んな人が色んな方法でビジネス試行錯誤してる土壌があるので、競合が実はかなり多いんですよね。
採算度外視でやるならそもそも耳目を集められるフォーマットはもうたくさんある。

もちろんkindleのスタートダッシュに乗れたマンガ作家さんもいらっしゃいます。
それは今まで他のマンガサイトになかった作品を、今までのマンガサイトに興味のなかった人に向けてリリースして成功した、という事象であると自分は思います。
kindleが特別マンガ向きであるという事はないかなあと。



 

○それでも鈴木フルーツはKDPやりたかった!


以上のイマイチ感を抱きつつも、なお、鈴木フルーツはkindleを選んだ事に相応の意義と手応えを感じています。
これまでも電子書籍サービスには興味があったんですが、なんか、間に一手間入る感があるのが個人的にしっくり来なくて。
KDPで出しても、その事を継続的にアピールするのは(ズボラな自分には)難しいだろーなーって薄々思っていたけど、それでもamazonっていうでっかい本屋で、自分の作品をとりあえず並べてみる、っていう事に対する好奇心は強かった。

 

■もっと多くの人に読んで欲しくて始めてみたら…


KDPで実際に何冊か発行してみて「多くの人に読まれている」と実感しています。
最初に想像していていた部数よりずっと多くダウンロードされてました。これは本当にありがたいことです。
そもそも、自分がKDPを始めたのは「コミティアや同人委託サイトとは全く違う読者層に触れる事」が目的でした。
しずむちゃんのレビューを見る限り、その狙いにかなりいい感じで近づけたのでは、と思っています。



 

一例として、初代しずむちゃんは、同人誌として発行した部数の2、3倍はダウンロードされています。
たぶんkindleのアーリーアダプターにあの作風ががっちりハマッたのも大きいです。これたぶん他のサイトでやったらこんなに読まれなかったと思うんですね。
漫画推し系の販売サイトにいる読者さんは、もうしずむちゃん読んでくれてる読者さんと層が重なると思ってるんです。
amazonのお客さんは大多数がそうではない、というのが重要だったんです。フルーツにとって。

 



 

■一方、注目を浴びなかった本は…


しずむちゃんは、いくつかの電子書籍サイトでレビューを頂けたり(本当にありがとうございます)、ダイレクト文藝マガジンの表紙とかになったりで、ラッキーがいっぱいありました。
どこかでピックアップされると、それは即座にダウンロード数に反映されていて、このあたりはさすがweb販売という感じでしたが、その一方で「この町のハテ」はぶっちゃけかなり低調です。
方向性は違うものの、作品の質は決してしずむちゃんに劣らないし、同人誌として出していた時にもしずむちゃんと同じぐらいのペースで頒布出来ていたはずなのに、この差。
人の目に触れる機会の有無でこうも違うか!という驚きです。作品の質云々以前に、認識されてない率高い。
前述の初期スタート位置の違いがモロに出た例だと思っています。




いいマンガだと自分で思ってるんで、ぜひ読んでください!

 

○今後のKDPとの付き合い方


kindleって、日本で始まってからこの五月までの間に、結構色んなところが改善してて、ヘルプも日々アップデートしてるし、公式のマンガ作成ツールも出たし、今は不親切なところが、半年後には良くなってるかもしれない。

なので、これまで述べたイマイチなポイントも改善されるっていう期待値が大きいんです。
それにやっぱりロイヤリティ70%ってでかい。作家さんによってはそれで飯食える可能性ぜんぜんある。
マジで売る気で、ちゃんと作家が本気で告知しまくって、ガチ利益を作ろうと思ったら一番でかい売り上げを継続的に作れるのはやっぱりkindleなんじゃないかと。
(利率はパブーも同じだけど、作者が告知にかける労力=作品の露出とするなら、amazonの方がリーチ量はやっぱり大きい…はず!)
今のうちにKDP初めて、KDPセレクトで3ヶ月70%のマージン取って出た売り上げと、その後他のサイトでも併売してみて出た売り上げを比較して、初めて見えてくるデータもあると思うので、興味ある作家さんは、やるなら早いほうがその後の戦略も立てやすい。かなあと思うわけです。

 



 

 

以上が、鈴木フルーツの視点から見たkindleマンガ出版の所感でした
これはあくまで、アマチュアとプロの中間にいる、(現状)マンガが生業ではない作家のケースだと思ってください。
本格的な商業プロが見るとまた、全く違う見方になります。なので、現在プロで生計を立てている作家さんはこちらの記事を。
エキサイティング過ぎたらしい #電子マンガサミット をまとめた。 #mangasammit

鈴木みそ先生、うめ先生、赤松先生それぞれが見た時のkindleの戦場感の方が実感が近いと思います。

…読者の方にはピンと来ないかもしれませんが「連載してた分の単行本が出ない」「再販がかからない」って、かつてのベテランに限った話じゃないです。
自分含めて山ほどある状況なんですよ。コミティアとかで単行本にならなかった連載を同人誌として出すのって、めちゃくちゃよくある話なんです。
(そういうの、なんで一般的にあんまり知られてないかっていうと、一般的な層に知られてない範囲にも山ほど作家がいるからです)
そういう作家さんの動向が、KDPマンガの今後を左右すると行っても過言ではないと思っています。

 

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以下は、実際の手続きなど。作家さん向け情報。

 

 

○KDPをやるために必要な手続き


1・KDPのアカウントを作成


これは簡単です。特に、既にamazonのアカウントを持っていれば、同じ個人情報でKDP用のアカウントも作れます。
https://kdp.amazon.co.jp/self-publishing/signin <これは専用のページがあるので親切ですね。

 

2・EINの取得


ここが最初の巨大な壁だと思います。KDPは米国Amazonのサービスなので、日本の著者へのロイヤリティの支払いも米国でなされるのですが
米国以外の作家に対して30%源泉徴収が行われます。しかし、これは手続きをする事で免除されますそのために必要なのが「EINの取得」です。
(逆の事を言えば、30%取られても構わないと思う方はこの手続きをまるっとすっとばしても構わない…かもしれません。法的にどうなのかは分かりませんが!)
これに関してKDPのヘルプページに、概要と書き方が載っています。

基本的には、IRSからEINを取得する方法は
「電話で直接話す」
「FAXで書類を送付」
「エアメールで送付」
の三択です。

英語に自信があれば電話ならその場でEINを出してもらえるようです。英語できなければコンビニでFAXを送るのが一番やりやすいと思います。自分もそうしました。
 IRSフォームSS-4のpdf書類はコレ。記入については、↑のKDPヘルプにも細かく解説があります。
ユーザー目線の解説は「つんどく速報」の記事が詳しいですね。

(fax番号については、KDPページも今は最新のものに直っているみたいですね。)
やっぱり漫画家さんの生の体験談が参考になります!ということで、鈴木みそ先生のブログ記事も。
鈴木みそ オフィシャルブログ 「ちんげ教」EINとW-8BENのまとめ

 

3・W-8BENの提出


EINの書類を送付し、内容に問題がなければ、大体3週間から一ヶ月で米国からEINがエアメールで送付されてきます
…この時点でだいぶ時間がかかるんだなーと思われる事でしょうが、あと一息です。EINを取得したら今度は、米国amazonにEINを取得した事を申請しなくてはいけません。
EINはamazonが作る番号ではなくて、米国から取得する雇用者番号。それをamazonに教える事でようやく免税ミッションが完了するわけです。
W-8BENのpdf書類はコレ。
記入については、やはり「つんどく速報」が詳しいです。

このあたりは多くの人がつまづくところなので、検索すると体験記事ブログがいっぱい出てくると思います。それらも参考にすると安心度が高いかも。

注意したいのが、EINの取得と違い、W-8BENをamazonに申請するのはいまのところ郵送しか手段がないので、頑張ってエアメール書く必要があります!
料金はものの260円ですが、エアメールのお作法などはこれまた頑張って検索して書いてください…!
こちらは、EINに比べれば返答が早く、一週間程度でamazonの登録メールから返事が来る模様。(自分はただいま返事待ち中です)

また、このへんの手続きを一切知らずに見切り発車でKDP出版してしまった人は、amazonに申請してロイヤリティの支払いを差し止める事ができます。
これは忌川タツヤさんのブログに詳しい内容が。
Kindle本のロイヤリティ(印税)支払い手続きは、停止(繰り越し)することができる

節税が終わったところで最後にもう一つ。

 

4・amazonからロイヤリティを受け取る銀行を選ぶ


振り込み元が海外なので、適当に銀行を選ぶと「海外からの振り込み手数料」で結構取られたりします。
金額は銀行によって異なりますが、最低金額が1500円から3000円と、これヘタしたら振り込み手数料でロイヤリティ全部相殺されんじゃねーの、ってぐらいは取られてしまうので、そういうのがない銀行を選ぶのが大事になります。
で、現状は、そういった手数料が一切発生しない新生銀行一択です。
調べてみるとかなりの作家さんがそうしてるみたいなので、ここはあんま悩まなくてもいいかなーと。
ネット経由で口座も作れるしね(記入書類が必要なので、二週間くらいかかるかと)

 

 

○実際にマンガのデータを作る


■epubデータの作り方


kindleの電子書籍形態はepubです。
epubは、html割とそのまんまなので、知識がある人なら手製で作れますが、先人の知恵を借りるのがいいと思います。
コミスタでおなじみセルシスのkindle解説ページ。
さっそくKindle用コミックを公開してみよう!
コミスタ使える人はこのページざっくり見ると概要がなんとなく理解できそう。
自分は今まで出した4冊はこのページとにらめっこして作りました。セルシスさんありがとうございます。
リサイズについてはアバウトに対応してくれます。自分は900×1277でやってます。(解像度は300になってるけどたぶん気にしなくていいと思う)

で、今はamazon純正のKindle Comic Creator が出たので、これ使うのがたぶん簡単です。
Kindle Comic Creator
自分はまだ使った事ないんだけど、画像の縦横サイズだけ合わせてjpgハメていけばいいんじゃないかなあ。

あと、KDPってロイヤリティ70%の時はなんとデータ量によって通信費一部負担する事になるので(自分のケースで一冊十数円とかですが)データは軽い方が吉です。



 

■過去、商業で出していた作品の場合に気をつけるべき事


鈴木フルーツの過去作品は、芳文社、livedoorそれぞれから全体的に権利が戻ってきていたので、好き勝手出来ました。
が、それでも、掲載されていた原稿がそのまんま使えるとは限らないです。
出版社との契約内容にもよると思いますが、概ね以下の懸念が発生します。

セリフに使われているフォント<出版社に使用権があるので大抵そのまま使えないと思います。(自分で付け直す必要あり)
マンガのタイトルロゴ<出版社とデザインしたデザイナーに権利があるので、無断で使う事はできないはず。
単行本時の表紙やイラストカット<イラストは描いた本人のものだけど、レイアウトはデザイナーの仕事。よって、他のデザインが絡む場合、そのまま転用はムリな事がある。

自分は結局紙で単行本出してないので、このあたりのハードルはだいぶ低かったですが、出してた作家さんは出版社によってOKとNGのラインが異なるはずなので、直接確認を取るのが吉だと思います。

最初からkindle向けだったり、同人誌のデジタル化であれば、元データは完全共通で基本問題ないですね。

 

■値段


これ、結構大変だと思うんですよ。
最初からkindle向けの作品で、なおかつ採算を一切無視した作品に関しては100円でスッパリ値付けもいさぎよいです。でも、

過去、商業コミックとして出ていた場合→「コミックスを買ってくれた人が不満に感じないような電子版の値段ってどのへんだろう…」

同人誌で出してしかも印刷費で赤字だった場合→「電子版の売り上げを赤字補填にしたいけど、そもそもページ数もそんなに無いのに250円とかいいのかな…」

みたいな悩みが発生することでしょう。
これに関しては今のところ相場らしい相場もないですし、作家さんによって「スッパリ100円」「初回無料キャンペーン」タイプもあれば、「紙の時から7割引~半額程度」タイプと色々です。
元を発行してから何年経過しているか、も要素に入りますよね。
あとは、今後kindleオリジナル作品で収入を立てたい!みたいな作家さんのチャレンジが積み重なると、また新しい相場も生まれるのではと思います。
頑張って悩みましょう!自分も最初にしずむちゃんを200円設定にするまで3日ぐらい悩みました!以上です!

後半は電子化全般に関連する事でしたが、こーいうの考えるのがそもそも面倒くさいって作家さんも決して少なくないと思うんですよね。
長期的にマンガを描いて行きたいが、それ以外の事で(今は)悩みたくない」場合、まんがごっちゃみたいなサイトに登録して作品を粛々とアップ→評判次第でブレイク!という流れもまたアリだと思うのです。

選択肢は実に色々です。それでもKDPって思ってる作家さん、乗れる範囲で相談に乗ります!

 

 




次の電子化候補は「アイドルのむすめさん(1作目)」と「しずむちゃんショコラ(シリーズ3作目)」でもまだまだ紙の在庫いっぱいあるのでどうしようかと…買って!